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- J・P・トゥーサン『ためらい』〜まさか何も起きないなんて〜
先日、
という記事を書きました。
取材中、店内にあった本が面白そうで、思わず立ち読みしたという話です。
トゥーサンの『ためらい』
さっそく取り寄せて、最後まで全部読みました。
なんとこの本、
「友達に会いに港町まで行ったけど、ためらっちゃって、なかなか会いに行けない」
そんなお話でした。
登場人物は、33歳の主人公「ぼく」と、ベビーカーに乗った8ヶ月の息子。
「ぼく」のひとり語りで物語は進んでいきます。
「ぼく」は、昔からの知人であるビアッジ家の人々に会うため、船に乗ってサスエロという港町に行くのですが、ついた瞬間、「なんか、ためらっちゃって(意訳)」なかなかビアッジ家の屋敷に行けない。
ホテルで時間をつぶしているうちに、どんどん時は経っていく。
仕方ないのでビアッジ家まで行くけど、生憎の留守。郵便受けを見ると、手紙が溜まっている。
その中には「ぼく」が書いた「サエスロに行くよ」という手紙も。でも、これをビアッジ家の人々に見られたら、自分がここに来ていることがバレてしまう。それがなんか嫌なので、手紙を勝手に持ち去ってしまう。
持ち去った挙げ句、海に落としてしまう。
それからもなかなか会いに行くことができずにいたけど、はたと気づく。
「毎日村を歩いてるけど、ビアッジとすれ違うことがない」
「ひょっとして、ビアッジも同じホテルに滞在して、ぼくのことを見張っているのでは?」
と、謎の勘ぐり始めます。
さっさと会いに行けよ、なんて思ってはいけません。
そう考えると、ホテルにいる間も誰かに見られているような気がするし、勝手に誰かが部屋に入っているような気もする。
村に止まっているメルセデスも怪しいし、猫の死体も怪しい。
港にいる男はなんか自分を見ている気がする。
全部怪しい。と思っているうちに、終わりました。
前記事で、
冒頭もミステリアスで、何かが始まりそうな雰囲気。引き込まれます。
と書きましたが、始まりそうでついに何も始まらなかった。
なんとなく、児童書のような世界観で、現実的なんだけど、不思議な空気が漂っている感じ。
これはずっとそうだった。
いろんな手がかりから「ぼく」はビアッジのことを推理するのですが、それは当たっているようで、実際のところはわからない。その書き方が上手いと、訳者あとがきに書いてありました。な、る、ほど〜。
気になったのは、8ヶ月の息子をホテルに置いて出かけちゃうところです。
いくら寝ているからって、危ないのでは? 文化の違いでしょうか。
何も起きなかったけれど、何気ない日常風景の中に、サスペンス要素を見つけては勝手に震えているという展開は面白かったです。サエスロという村は架空の村だそうですが、風景描写が詳細なので、目に浮かんでくる。
癒やしの中編小説でした。
人生にいろんな意味を見出しがちな人は読んでみるといいと思います。意味のないことも大切なんだなって思えます。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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