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- 浅利演出事務所『ミュージカル李香蘭』〜握手求めるのはマナー違反だよね〜
雨の日のマダム
4月に『ミュージカル李香蘭』を観てきました。
劇団四季のレパートリーだと思ってましたが、いつの間にか浅利慶太事務所の演目になっていたんですね。劇団四季は、4、5年前に観た『キャッツ』が最後だったと思いますが、浅利慶太事務所の公演ははじめてです。そのうち観たいなと思っていた作品ですが、あらすじは知らない。出演者も知らない。NO知識、NO予習で向かいました。
浅利慶太事務所の公演ではあるけれど、四季の会がチケット売って、自由劇場でやります。そのあたりの事情はよく知りません。当日は生憎の小雨でしたが、自由劇場前はお客さんでいっぱいでした。劇場の入り口前に、李香蘭と書かれた大きめなパネルがあったので、記念に撮影することにしたのですが、前で撮影していたマダム2人がなかなか終わらない。
お互いピンショットを撮り合っていて、お一人はすぐに撮影できたのに、もうひとりの方がなんだかモタモタしている。私はスマホを見ていたので、声だけ聞こえる。
マダム1「あれ、押せない。シャッター押せない」
マダム2(ポーズしている)
マダム1「あれ、なんで? なんで押せない?」
マダム2「ちょっとー」
マダム1(カシャッ)「あ、押せた。ごめんもう一回撮るわ」
マダム1「あれ、押せない、押せない」
ということを、3回ほど繰り返していたので顔を上げたら、マダム1は、スマホの真ん中をずっと押し続けていた。ボタンは白いところですよと言おうとしたところで、マダム2がしびれを切らし、「うしろも並んでるから」と後列に回ってしまった。もっと早めに顔をあげればよかったと思った出来事でした。
16年前の浅利慶太遭遇事件
さて、劇場に入った私は客席の最後列に座ったのですが、後ろを振り返ると、スタッフルーム?の入り口のところに、浅利さんの写真と花が供えられていました。2018年に亡くなったので、もう4年も経つんですね。じつは私は高校生の頃、自由劇場で、浅利さんと握手をしたことがあります。たしか、劇団四季の『ブラック・コメディ』というストレートプレイを観に行ったときだったと思うのですが、終演後ロビーに出たら、人混みの中で浅利さんが1人でウロウロしていました。私はわからなかったのですが、一緒にいた熱烈な四季オタクの友達S子が興奮気味に「あれ! 浅利慶太いる!」と、大声で耳打ちしてくれたので、間違いなくご本人だったと思います。
特に深く考えず「よし、握手してもらおう」と言った私を、S子は「え、え、大丈夫?やめたほうがよくない?」と止めてくれましたが、私は構わず行きました。「握手してください」と言ったら、浅利さんは一瞬「え?」的な表情をしましたが、微笑んで握手してくださいました。嬉しかった。1人が握手すると、周りの人たちも握手したくなっちゃうから、きっとマナー違反の行為だったと思います。多分、周りで見てた人たちも「え?」って顔してたと思います。今ならしません。高校生で物知らずだったんです。どさくさに紛れてS子も握手してもらってたと思います。そんな浅利さんとの思い出を懐かしんでいたら、いよいよ李香蘭の幕が上がりました。
劇団四季レジェンド・樋口麻美さん
主演は、誰だ? 誰だあれは? と思ってたら、なんと野村玲子さん。1991年初演の『ミュージカル李香蘭』でタイトルロールを務めた野村さんが、現役で李香蘭を演じている。浅利慶太の奥さんで、浅利さんの死後は事務所の代表を務めてらっしゃるんですね。御年60歳とは思えない、見事な歌いっぷりでした。喉が強い。李香蘭の幼少期も一瞬登場するのですが、それも見事に演じきっていました。もはや伝統芸能ですね。
そして、登場する友達の愛蓮。なんかすごく歌が上手いなと思ったら、樋口麻美さんだったんですね。15年以上前、劇団四季の看板役者だったと記憶しています。上述した四季オタクのS子が、樋口麻美さんの熱狂的ファンで、私も話をよく聞かせてもらっていました。とにかく歌が上手くて、可愛いんだと。当時S子は、公演パンフレットに掲載されている写真の、見切れている手とか足だけで、樋口さんを判別できたので本物です。私も『クレイジー・フォー・ユー』で樋口さんを観て歌の上手い人だな〜と思ったのを覚えています。そんな樋口さんが、李香蘭に出ている。劇団四季で看板を張っていた頃から15年以上経ってるのだから、そりゃ退団してますよね。でもこうして、思いがけず舞台に立っている姿を観ることができて感激でした。
あとあと調べると、退団後はそこまでミュージカルへの出演は多くないようなので、ラッキーでした。相変わらず歌唱力抜群で、歌った瞬間に「あれは誰だ?」と思わせるってすごいなーと思います。
「え? そんなことあったっけ?」
ストーリーは、実在した山口淑子=李香蘭が、歌手として大成功。中国・日本で絶大な人気を誇りますが、終戦後、中国で祖国反逆者の罪で軍事裁判にかけられるというものです。この舞台の企画がいつ立ち上がったのかは知りませんが、現実世界でも戦争が起きている今、舞台化する意義がおおいにあったのかなと思います。
公演パンフレットでも、英文学者の河合祥一郎さんが、ウクライナ侵攻について触れていました。浅利さんが生きていたら、パンフレット冒頭に何を書いていたかなと、ふと思いました。まとめると『ミュージカル李香蘭』すごくよかったです。はじめて観る作品でしたが、高校生の頃の思い出がたくさん蘇った1日でした。
余談ですが、S子は自由劇場での浅利さんとの遭遇をまったく覚えていませんでした。「ブラック・コメディ観たのは覚えてるけど、一緒にいったっけ?」とのことだったので、思い出は1人で取っておくことにします。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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