- HOME
- 澤村伊智短編集『ひとんち』〜人の家の不思議〜


引き続き、人から借りた澤村伊智先生の短編集レビューです。
ひとんちの習慣ってなんか変
今回は『ひとんち』

全8話を収録した短編集です。
表題作の『ひとんち』から始まります。
他人の家とは何か「ズレて」いるーー。友人の香織の家に遊びに行った「わたし」。
近況報告するうち、各々の家に伝わる独自のルールの話になり……。
学生時代、バイト先で意気投合した女性3人が、十数年ぶりに再会。
その中のひとり、香織のお家にお邪魔し、思い出話に花を咲かせるものの、次第に噛み合わなくなっていくというストーリーです。
自分の家にだけ伝わるルールというのは、どのご家庭にもあると思います。
作中、「麦茶に砂糖を入れる」ことについて、ちょっとした議論になります。調べてみると、地域によっては麦茶に砂糖を入れて飲むそうです。知らずに飲んだら、ちょっとびっくりするかもしれない。
また、元義実家で体験した、奇妙な風習については、それ一本でホラー小説が書けそうなくらいでしたが、「ていうことがあったんだよね」とあっさり話し終わります。理由も一切わからないままで、かえって不気味でした。世間話の一つにする話じゃない。
終盤、いよいよ香織の発言がおかしいことに気づいた「わたし」と友人は、逃げるように家を後にします。しかし、香織の発言についても、真相は明かされないままです。一体家の2階には何があったのか。
そんなこんなで、十数年ぶりの会合は、嫌な気持ちで終わります。
が! ここで終わりません。ラストに、さらなる展開が待ち受けています。
これを読んで、小学生のときに遊びに行ったお友達のお家のことを思い出しました。
リビングに入ると、普通に大きいゴールデンレトリバー(もしかしたらラブラドールレトリバー)が、4匹くらいウロウロしていました。
たまたまその日預かってたのか、それともいつも室内で4匹飼ってたのか思い出せませんが、そんなに広くないリビングにデカめのわんちゃんがいたことが衝撃で今も忘れられません。あれなんだったんだろう。
悪夢によってクラスが団結するイベント
ほかに、私が好きだったのが『夢の行き先』と『じぶんち』です。
端っこの席から、順番に悪夢を見るようになった、小学校のとあるクラス。
両方向から2種類の悪夢が真ん中の席に向かっていくので、ちょうど真ん中に座っている男子は、次第に様子がおかしくなっていきます。そしてついに、悪夢が重なる日がやってきて……というストーリーです。
このタイミングで席替えしたらどうなるんだ? とずっと考えていました。
悪夢見るのは嫌だけど、クラスが団結できるイベントみたいだなと思いました(イベントじゃない)。
本当にこんなことが起きたら嫌だ
この本のラストを飾るのが『じぶんち』です。
スキー合宿から帰ってきた中学生たち。
渋滞に巻き込まれ、帰宅時間が大幅に遅くなった彼らを、保護者が学校まで迎えにやってくる。
しかし、いつまで経っても迎えにこない親にしびれを切らした卓也は、1人で家に帰宅。
ところが、家の中に家族の姿はない。そのときクラスメイトから電話がかかってきて……。
時間をかけてやっと家に帰ってきたのに、家族が誰もいないのしんどいな、という気持ちになります。
その後、家族が帰ってくるものの、なんか知ってる人たちじゃない……と、さらに嫌な気持ちに。
じつはこの物語はSFで、定期的に? 人類が刷新されていく世界のようです。
卓也の家も、卓也以外は全員どこかに「転送」されており、新しい家族の世界線になっているのですが、エラーのせいか、卓也だけ「ダブり」になってしまったというわけです。
新家族たちの白々しい態度に、悲しい気持ちになりました。
なんとなく嫌な気持ちで終わる結末です。
『ひとんち』は、がっつりホラーというよりは、日常の中で、「こんなことあったら怖いよね」的な怖さでした。
あのわんこたちは、一体なんだったんだろう……。


中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
コメントを残す