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- 劇団四季『エルコスの祈り』〜金庫の金がない!〜
劇団四季ファミリーミュージカル『エルコスの祈り』を観てきました。
9月は何を観ようか悩んでいたのですが、「そういえばこの作品名前は知っているけど、あらすじすら知らないな」ということで選びました。
8月5日、約6年ぶりに東京自由劇場で開幕。
東京公演が千秋楽を迎えたら、9月9日からは全国公演になるそうです。もうすぐですね。
あらすじ
学校や親からオチコボレ・問題児と決めつけられた子どもたちが集められたユートピア学園では、きびしい管理、命令・規律に従わせ、子どもたちの夢や個性を奪う教育をしていました。そこへ、一台のロボットがやってきます。その名は「エルリック・コスモス」通称“エルコス”。
「どんな時代にも、どんなことに出会っても、決してほほえみを忘れずに、豊かな心を持って生きていける人間になってほしい」
科学者ストーン博士が願いを込めて人間の女の子そっくりに作りだした、アンドロイド・エスパー(スーパーロボット)です。
子どもたちひとりひとりの持っている豊かな個性を引き出していくエルコスに、皆は次第に心を開くようになっていきます。 しかし、小さい頃から機械に囲まれて育ったジョンは機械を憎んでいて、エルコスを認めようとしません。
そんな彼を、エルコスは理解し、勇気づけようとしますが、ジョンははねつけてしまいます。 一方、エルコスが学園にきてからさんざんな目にあっていた学園の教師たちは、エルコスをやっつけるためにジョンを利用することに……。果たしてエルコスの祈りは、みんなの心に届くのでしょうか?
未来を舞台にしたロボット学園ストーリーです。
こちらの作品、初演は1984年。『エルリック・コスモスの239時間』というタイトルで日生劇場で初演を迎えて以来、40年以上にわたり全国各地で上演されてきたそう。1984年でのロボットの価値観がどんなもんだったのかも気になるところです。
ピエロ風メイクの先生方が怖かったです
物語は、セールスマンがユートピア学園の理事長に、エルコスを売り込みに行くところから始まります。この世界ではロボットが子どもたちの世話をするのが当たり前のようです。
ユートピア学園の子どもたちは、皆心に傷を持っています。ネットに悪口を書き込まれたとか、自作の曲を歌っていたら親に怒られたとか、現代風の悩みでした。このへんは時代に合わせてセリフが変わっているんだろうな。
ダニエラ、パルタ、ダーリーという厳しい3人の教師によって、子どもたちは抑圧され、個性を奪われています。みんなヘッドギアみたいなのをつけて生活している。
ちなみに、この3人の先生全員白塗りで、ピエロ風メイクをしているのが怖かったです。恐ろしい存在でるという象徴なのか?
さて、そんな生徒たちのもとへINされたのがエルコスです。エルコスは、ミニワンピースにハイヒールという、普通の教師には似つかわしくない格好。しかし、料理も掃除も裁縫も一流で、何より子どもたちの自己肯定感を爆上げするのが得意です。
自信喪失していた子どもたちですが、エルコスから新しい服をプレゼントされ、一緒に踊ったり歌ったりすることで、少しずつ自分を認められるようになっていきます。呼ばれるとハイヒールでダッシュするエルコスが可愛かった。私もエルコスに世話されたい子供だった。
ところが、ジョンという生徒だけはエルコスに心を閉ざしたまま。彼は小さい頃に母親を亡くし、機械に育てられたことから、ロボットに反発心を持っています。
みんながエルコスとわいわいやっているのを横目に、どんどん腐っていくジョン。
気持ちはわかるが、エルコスいい子なんだから、もっと向き合ってあげてジョン……。
という観客の願いもむなしく、ジョンがやらかしてくれます。
エルコスが邪魔なダニエラ先生たちに利用され、エルコスの燃料に不純物を混入するのを手伝ってしまうのです。そんなことをすれば、エルコスが消滅するとわかっているにも関わらず。やることが悪どすぎるジョン。
ダニエラたちも、当初はエルコスを消すことを目的としていましたが、「どうせ金庫開けるなら、その金持ってトンズラしよう」と高跳びを計画。完全にやばい教師でした。
しかし、もっとやばいのは理事長です。
善良な空気を醸し出していますが、そもそもダニエラたちの教育方針になぜ口を出さなかったのでしょうか? ヘッドギアに賛成だったのか?
そして、教育を全任せできるロボット(エルコス)を導入したかと思えば、即ダニエラたちを解雇しようとするのもすごいなと思いました。
管理するのはお金だけで、子どもたちの生活は見ていなかったのか……それはそれで理事長辞めてしまえ案件なのですが……ひょっとすると、「当事者を回避して人任せだが、金を持ってるので一番権力を持っている」人間が一番厄介なんだよということを教えてくれる存在なのかもしれません。だとしたら、キッズたちには難しすぎる。
通報する理事長にイラッとする
燃料が保管された金庫を「本当に僕を信じてるなら、エスパーで開けてみろ!」とジョンに恫喝されたエルコスは、言う通り開けてしまいます。可哀想なエルコス……。
そこへやってきたダニエラたちに人質にされたジョン。何やってんだジョン!!!!
「ジョンの命が惜しければ、金を袋に入れろ」とまたもや恫喝され、言う通り金を入れるエルコス。さらに、何も知らずに不純物の入った燃料を飲んでしまいます。
ああ〜〜……。
そのあとやってきた理事長が「金庫の金がない!!」と言って即通報してたのがまたイラッとしました。
最終的には高跳びしようとするダニエラたちをエスパーの力によってねじ伏せ、「ジョンを責めてはいけない」「一番大切なことは、許すこと」とみんなに伝えながら、消えていくエルコス。
「あ、消えちゃうんだ?」
と少し驚いてしまいました。なんだかんだ生存でハッピーエンドなのかなって……。そううまくはいかないファミリーミュージカルでした。切ないですね。
パンフレットについて…
ところでファミリーミュージカルって、観ていると「やりたい」と思えるような演出になっているのがいいですよね。ディズニーミュージカルなど大規模な作品は劇場が広いこともあって、「観るだけ感」が大きいと感じます。一方ファミリーミュージカルは、観客にも「踊れそう・歌えそう」と思わせる演出がうまく入っているなという印象です。『エルコスの祈り』もまさにそんな物語でした。
私はもしやるなら、体罰ロボットがいいです。バルタン星人みたいな衣装が可愛かった。
帰りはパンフレットを購入。
「そうだ、劇団四季会員証を見せると、袋がもらえるんだった」と思い、スマホでごちゃごちゃやっていましたが、この公演では特にそういった特典はありませんでした。なので、これから観に行く人は、会員証は出さなくて大丈夫です
パンフレットは通常のミュージカルが2000円なのに対し、こちらは1000円。ただ、その分薄いです。
稽古場写真を2ページほど減らして、その分、制作舞台裏や小道具の紹介などに割いてほしいなと思いました。衣装とかメイクの意味を解説するとか。キッズたちもそのほうが読み込むんじゃないかなと……。これはクレームではなく提案です。
そういえば、どことなく私の好きな『扉のむこうの物語』を彷彿とさせるような空気感も良かったです。ファミリーミュージカルだからかな。
良い作品でした。
ちなみにキャスト表はこちらです。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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