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- シアターコクーン『みんな我が子 -All My Sons-』〜パンフレットは現金払い〜
堤真一に会いに行く
5月、Bunkamuraシアターコクーンで上演していた『みんな我が子 -All My Sons-』を観に行きました。チケットは、先行発売の抽選でゲットしました。どうしても行きたかったのです。それはなぜか? 堤真一が出るからです。堤真一のことが好きすぎるあまり、長い間、彼が出演する映画やドラマは避けていました。キリン一番搾り生ビールのCMが流れると目をそらしていましたが、最近やっと慣れてきて、正視することができるようになったので、思い切って実物を見に行くことにしたのです。
『みんな我が子』は、1945年にブロードウェイで初演されたアーサー・ミラーの作品です。演出は、『欲望という名の電車』の監督でもあるエリア・カザン。当時作品は大ヒットし、第一回トニー賞劇作家賞、ニューヨーク劇評家賞を受賞した傑作です。ちなみに、この後にアーサー・ミラーが書いたのが『セールスマンの死』で、彼はこれでピューリッツァー賞も受賞し、劇作家としての名声を決定的なものにしたわけです。もちろん知らないので調べてから行きました。外国の戯曲で、さらに、かなり古い作品においては、(個人的に)予習が欠かせません。初見で観ても大抵、意味がわからないからです。登場人物の立ち位置を覚えるのに時間がかかるし、ストーリーも突拍子もないことが多いので、NO知識のままだと「よくわからなかった」で終わります。
そこで今回は事前に図書館で戯曲を借りて読み、アーサー・ミラーの出生や他作品についても調べてから行きました。読んでもいまいち「???」だったので、予習していって正解でした。
1800円とか持ってないし
当日、少し時間があったので、Bunkamura近くのカフェでお茶をしていると、隣に女性二人組が座りました。聞こえてきた話によると、どうやら彼女たちも『みんな我が子』を観に行くらしい。
女性1「今日、全然、なんの話かわからずに来た」
女性2「私も。まったく知らないけど大丈夫かな」
と言っていましたが、多分大丈夫じゃなかったはず。劇場前にはすでに大勢の人でいっぱいでした。入り口前のポスタービジュアルを撮影しようと、ずらっと人が並んでいました。私は1時間前に来てすでに撮影していたので、悠然と通り過ぎていきました。
劇場内も混んでいましたが、恐らく7、8割は女性客だったと思います。私と同じ堤真一好きもいたと思いますが、森田剛ファンも結構いたのかも。あと西野七瀬ちゃんファン。森田剛は舞台俳優としてかなり評価されてると聞いていたので、楽しみでした。西野七瀬ちゃんは、『あなたの番です』に出ているのを観ていましたが、あんなに線が細くて舞台上で声出るのかしら……と思っていました。
公演パンフレットを買おうと、販売所に行ったところ、なんと現金しか取り扱っていないという。カードも電子マネーも使えない。私は財布に現金500円くらいしか入っていない。パンフレットは1800円。全然足りない。パニックになりました。でも安心してください。半券を見せれば再入場できます。近くのコンビニでお金をおろして、無事パンフレットは買えました。キャッシュレス決済が増えたとはいえ、こういうところでは現金が必要なんですね。勉強になりました。
西野七瀬ちゃんは顔がりんごと同じ大きさ
そしていよいよ開幕です。この物語は、主人公ジョー・ケラーたち家族が暮らす家の前の、なんか、敷地的なところで繰り広げられます。幕が上がって目に入るのは、一面の灰色の壁。中央に玄関があり、その横に窓、2階にも窓があります。舞台後方が全部壁で覆われているので、閉鎖的な印象を持ちました。ストーリー自体も閉鎖的な内容なので、そういうの象徴しているのかな。舞台美術好きでした。美術・衣装を担当したピーター・マッキントッシュは、ウェストエンドとブロードウェイで上演された『The 39 Steps』がヒット。美術・衣装デザインともにトニー賞にノミネートされた実力者だそうです。今調べました。
そして、壁の前のベンチに腰掛けているのが、主演の堤真一です。ケラー家の大黒柱、ジョーを演じています。腰掛けているのにわかる圧倒的堤真一感。やはりスターってすごいですね。立ち上がると、足が長いし、顔が小さい。スタイルがすごくいい。「やっと会えたね」と心の中でつぶやきました。で、さらに顔の小さい森田剛が現れる。森田剛が、想像以上に芝居がうまくてびっくりしました。ジョーの息子、クリスを演じています。いまいち自信が持てず、家族や好きな女性との距離感に悩んでいる青年役が、すごくハマっていました。そして、西野七瀬ちゃんが登場します。顔がりんごと同じくらいの大きさしかありませんでした。テレビで観るより圧倒的に顔が小さい。クリスの恋人、アン(アニー)を演じます。西野七瀬ちゃんも、とても上手でした。あな番の黒島ちゃんより倍よかった。アメリカの田舎の、しゃかりきお嬢さんの役が妙に合っていました。
物語は、第二次世界大戦後。ケラー家のとある1日の話です。戦争中は飛行機の部品工場を経営し、戦争特需で財をなしたジョーは町の大物であり、妻のケイトと長男のクリスとともに幸せな生活を送っていました。しかし、次男ラリーは戦争で3年前に行方不明になったまま。そこにラリーの婚約者だったアンが現れて、一悶着します。悲劇です。
ネタバレになりますが、ジョーは戦時中、欠陥があると知りながら、飛行機の部品を納品します。結果、欠陥部品を使った飛行機は墜落、21人のパイロットが命を落とすのです。しかも、ジョーは同僚だったアンの父親にすべての罪をきせてまんまと逃げおおせます。その秘密を、家族たちが知ってしまうという話です。
話の筋は簡単ですが、お芝居にするとなぜか複雑になる外国戯曲の怪奇。さっきまで激怒していた人物が、直後に急に食事に誘い出すなど、情緒が読みにくいです。そういうシーンがたくさんあります。感情がついていけない。休憩中、パンフレットで出演者インタビューを読んでいましたが、ほとんどの役者さんが「戯曲が難しい」「よくわからないところがある」と言ってたので、演じてるほうはもっと大変だろうなぁと感じました。
やっぱり「我が子」がいいよね
クライマックス、すべての真実が明るみになり、ジョーは出頭するかどうかの決断を迫られます。観念したジョーは出頭することを決めるのですが、直後、銃で自殺するのです。この結末に驚きました。予習していったにも関わらず、流し読みしていたせいで、肝心の結末部分をすっ飛ばしていました。カーテンコールでは、堤真一だけを観ていました。堤真一見たさに行った舞台でしたが、共演者の方々の芝居も美術もみんな良くて満足です。ありがとう堤真一。
ちなみに、パンフレット情報によると、翻訳を担当した広田敦郎さんは、今作を翻訳するにあたり、『みんな我が子』にするか『みんな我が息子』にするか悩んだそうです。原文は「all my sons」なので、直訳すると息子なんですよね。でも、最終的には「我が子」に落ち着いた。以下、広田さんの言葉です。
【主人公ジョー・ケラーが自分の犯した罪を認識し、自ら裁きを下す物語を現代の私たちが共有する上で、そうした価値観や「わが子」の性別が決定的に関わってくるとは僕には思えません】(パンフレットから引用)
なるほど。海外戯曲は、翻訳する人の価値観も乗っかってくるので、そのへんもとても興味深いです。コンビニ手数料を惜しまず(惜しんだけど)、1800円を引き出して公演パンフレット買ってよかったなと思いました。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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