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DWT『A Number―数』〜数年後に思い出すような〜

2024.10.02

2年ぶりにお会いしましたね

DISCOVER WORLD THEATRE、2本めは
『A Number―数』 です。65分の短いお芝居。

出演は、堤真一、瀬戸康史。
堤真一とは『みんな我が子』以来、2年ぶり、二度目の再会です。

最近、阿部寛が還暦と聞いてビビりましたが、堤真一も同い年。
『やまとなでしこ』で欧介さんを演じたのが36歳のとき。信じられない。変わらない魅力。

さて、この『A Number―数』は、2002年初演、ローレンス・オリヴィエ賞リバイバル部門にノミネートされた名作です。ストーリーはこちら↓

バーナードは、ある日ショッキングな事実を知る。
どうやら自分には“コピー”、つまりクローンがいるらしい。
しかもそれは少なくない“数”が存在するようだ。
自分は数多くいるクローンの一つなのか、あるいは自分こそがオリジナルなのか。
父親ソルターは懸命に説明をしようとする、「自分は何も知らない、病院が勝手にバーナードの細胞を盗んで違法な“コピー”をつくったに違いない」と。
事情を知らないわけがないとバーナードがさらに問い詰めると、ついにソルターは重い口を開くが、そこで語られた“事実”は果たして“真実”なのか。
そしてまた別の日、ソルターの前にもう一人の“息子”バーナードが現れて──。

このあらすじは、相当簡単に書かれていますが、実際の戯曲は、もっと複雑で難解な会話劇です
『What If If Only―もしも もしせめて』が、まだわかりやすかったと思えるくらい。

翻訳の広田敦郎さんのインタビューによると、この戯曲は「不完全な文で書かれた」「リアルな台詞」だそうで、それゆえ「リアルに不完全な日本語」を作っていったとのこと……なるほど難解なわけだ。

狂気の父親とキレまくる息子たち

物語の中で、堤真一演じるソルターは、身勝手な理由で息子のクローンを作っては育て直すという、狂気に満ちた父親です。

息子のバーナード(B2)に問い詰められ、真実を少しつづ打ち明けます。
が、往生際が悪いので、全然話が前に進まない。そしてたまに嘘ついたりするので、面倒くさい。

そうしているうちに今度は、別の息子(B1)が現れるのですが、B2とは違って、ずいぶん荒れた性格をしています。というのも、ソルダーはB1を捨てて、瓜二つのB2を新たに息子として迎え入れたので、父親に対して恨みしか持っていません。

「お前のせいで、これはこんな人間になってしまった」とB1に詰められるソルダーですが、のらりくらりとかわそうとする。どこまでも卑怯な父親です。

B1とB2は、自分たちがクローンだと知って、己のアイデンティティに悩みます。
出生の秘密を知って混乱するのは当たり前です。
ところが、もう一人のクローン、マイケル・ブラックは違いました。

マイケルは、普通に結婚して、子供にも恵まれている。仕事にやりがいを感じていて、充実した人生を送っていました。クローンであることを知っても、別に動揺することもない。
B1とB2とは、随分違います。

そしてソルダーは、20人いるクローンの残り全員に会うことを決めて、物語は幕を閉じます。
なんて話だ。

自分にクローンがいると知って不安定に生きる人間もいれば、それを知っても特に関係ないと自分の人生を生きる人間もいます。
後者のほうが幸せなんだろうけど、なかなかそうはなれないよなと感じました。

数年後にふと思い出しそう

今回、『What If If Only―もしも もしせめて』『A Number―数』の2作品を同時上演するアイデアを思いついたのは演出のジョナサン・マンビィさんです。
悲しみや喪失感を経て、愛やアイデンティティを探していくという共通のテーマがある2作品を、連続で観客に観てもらおうという試みだそうです。

自分が一発でどこまで理解できたのかはわかりませんが、数年後にふと思い出しそうな作品だと思いました。

私自身、もしもせめて……と思う瞬間はそんなにありませんが、最近始まった朝ドラ『おむすび』を観たら、高校時代は面白かったなと強烈に思い出しました。おむすびど真ん中世代です。

今回も格好良かった


ところで、久々に観た堤真一は、やっぱりとても格好良かったです。
舞台上までだいぶ距離がありましたが、格好良いのは3階席まで、ちゃんと伝わってきました。
あと改めて思ったのですが、とにかくスタイルが良いですね。
顔が小さくて、足が長い!!!

久々の観劇で堤真一が見れて幸せでした。
また間を置かず、見に行きたいです。

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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