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- ビリヤード場の前田さん〜奇才、現る〜
漫画のレビューも好きだし、人の生い立ちを書いたりするのも好きなのですが、座談会を書くのも好きです。
座談会を、面白く書ける人、すなわち、人と人との会話を面白く書ける人が羨ましいなーって思います。
それで思い出すのが、ビリヤード店の前田さんのことです。
学生時代、小田急線沿いのビリヤード店(今はもうない)でバイトをしていたのですが、そこにいたのが前田さんでした。当時25歳くらいだったから、今は35歳くらい? そのビリヤード店では、アルバイトスタッフたちが自由に書ける交換日記みたいなのがあって、各々暇なときに書いていました。
私はその交換日記を読むのがいつも楽しみで、特に前田さんが書いた日記は、最高に面白かたのです。なかでも、前田さんが海水浴に行ったときのことを書いた日記は秀逸でした。
溺れかかった友達と、それを助けることなく見てるだけの自分を、臨場感たっぷりに書いた傑作。
「青っ鼻を垂らしながら助けを求めるN君」
「それを岸壁から見ている私。大きく手を振り、さっきよりもさらに鼻を垂らしているN君。そしてやはり岸壁から見ている私…」
こんな感じの、情緒的な文体を操る奇才でした。
その日の日記のタイトルはたしか『お母さん、お醤油取って』だったと思います。
何度も読み返すくらい好きだったのに、コピーしておかなかったことが悔やまれます。(友達は無事助かったそうです)
ビリヤード店が閉店すると同時に、前田さんと会うことはなくなってしまったけど、間違いなく文才のある人だったなぁと今でも思い出します。
そういえば前田さん、シフトを交換してほしいというメールをしても、一度も返信してくれなかったなぁ。
あと、私は店ではぼっちだったので、交換日記は見てるだけで、一度も書きませんでした。
そうだ、店内で行われたビリヤード大会にも一人だけ声かけられなかったなぁ。
前田さん、元気だといいなぁ。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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