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『チ。』〜記憶喪失〜

2022.07.01

8巻で終わりでした

本日も猛烈な暑さが予想されています。よりによって今週は取材など外に長時間出る用事が多く、自立神経がどうにかなりそうです。でも来週には、都内の気温は30℃前後まで下がり、なおかつ雨予報だそうです。ますます自立神経がおかしくなる。

ネットで「地球が殺しに来てんのか」というコメントを見つけて、ふふってなった今朝でした。地球といえばそうです。『チ。』8巻が発売されました。

本誌ではもう終わったらしいぞと聞いてはいましたが、目次見て「最終話」の文字があったので、この巻で最終巻なのかいという衝撃とともにスタートです。

そして読み終わった結論から言います。一言でいうとヤバかった。何がヤバいかって、後半全然わからなかった。それは物語が複雑とか、話がややこしいとかそういう話ではありません。

多分、7巻までに出てきている登場人物や伏線を一気に回収していたのに、前の話が思い出せないせいで、「この人誰だっけ?」現象が続いてしまいました。司教様って出てきてた? 最後に殺しに来た人って処刑されてなかった? アル、ベルト? 家庭…教師…?

でもいいです。このあと1巻からまた読み返します。で、改めて読んで驚くことにします。漫画の読み方は自由です。

そんな記憶喪失な私でも、ノヴァクは覚えています。1巻から8巻まで唯一レギュラー登場した人物で、地動説を弾圧する異端審問官です。元傭兵なので、鬼のように強い。容赦なく人を殺すところを見ると、サイコな感じがします。

地動説を唱える人を片っ端から片付けていくノヴァクは、最初嫌な奴でしかありませんでした。しかし最終話まで読んだ後は、こんなに徹底した悪役は久々に見たなと、清々しい気持ちになりました。彼が魅力的な悪役だったからこそ、チ。がここまで面白くなったんですね。

ミスター悪役大賞ノヴァク

8巻では、いよいよノヴァクが窮地に追い込まれます。

地動説に関する本の出版を止めるために、教会にたどり着いたノヴァク。ところが、司祭から「そもそも地動説ってなんでダメなの?」「実際誰も反対してないよね?」と、みんながなんとなく気づいてて、でも誰も言わなかったことをツッコまれます。予想外の人物からの反論に、おののくノヴァク。

論破されていくうちに、どんどん意気消沈していく。「俺が間違ってたんか?」的な顔をし始めるので、読んでる方は、何あっさり言い負かされてるんだよ、さっさと殺せよと、いつしかノヴァクを応援しはじめます。

しかしついに撃沈。「お前のことは歴史にも残さない」と言われノヴァクもここで終わりか…と思ったところでやってくれました。さくっと司教の首を刺して殺害。

その直前に、司教から肩ポンをされていましたが、同じポーズで刺したところにノヴァクの性格の悪さが現れていると思います。ここで全員死んだら、誰も地動説を語ることはできないし、真実が伝わることはないと考えたわけです。恐ろしいまでの執念ですね。

とはいえ、ノヴァクはここで死なないと、物語が終わりません。自分が追っていた少女に、不意をつかれて腹を刺されてしまいます。絶命するまでの間、これまでの自分の行いを振り返るわけですが、このシーン泣けましたね。サイコなノヴァクだけど、結局彼の根底にあったのは娘への想いだったのです。

もし一度でも自分の行為を振り返ることがあれば、娘が死ぬことはありませんでした。それに気づいたらもう止まることはできません。いや、止まれたとも思うけど。

そして最後、爆死した異端者の手首に、娘の手袋をはめます。サイズがぴったりだったのを見て、目の前で死んだ異端者が、自分の娘だったことに気づきます。本当は、あの爆発のときすでに気づいていたんですね。ノヴァクは、今際の際に、「どうか娘は天国へ」と神に祈ります。感動的なシーンではありますが、一方で自分が理不尽に処刑してきた人たちへの謝罪や祈りはありません。

ノヴァクが自分のことしか考えていない、愚かな人間であることがわかります。最後まで立派に悪役をまっとうしてくれて最高でした。本当なら、もっと気づくべきところがたくさんあるはずですが、いかんせん7巻までの記憶があまりないので、たくさんあるはずの面白ポイントをまるっとスルーしていると思います。早く読み返したいです。

続きが気になる漫画が終わってしまったことは残念ですが、全8巻とちょうどいいボリュームで最高潮のまま終わらせるなんて、魚豊先生、天才だなって思いました。

Wikiによるとペンネームは鱧(ハモ)からきているそうです。

そういう発想も天才だなって思いました。次回作も楽しみです。


PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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