- HOME
- 『おまえなんかに会いたくない』〜ハブられた同窓会〜
乾ルカさんの『おまえなんかに会いたくない』を読みました。
ざっくり、スクールカーストによるいじめの話です。
ライターの不動明子さん(ペンネーム)からおすすめされた『うるはしみにくし あなたのともだち』もスクールカーストの話でした。
ついでに以前読んで面白かった『六人の嘘つきな大学生』。
表紙の絵が全部似ている。
絵のタッチも似ているけど、多分イラストレーターさんは違うはず。
この感じが今のブームなのかもしれません。
タイムカプセルに仕掛けた時限爆弾
さて、『おまえなんかに会いたくない』は、高校時代に埋めたタイムカプセルの開封式をするため、かつての級友たちが同窓会をするというのが物語の主軸です。ストーリーは、現在と過去を行き来しながら、複数の人物の視点から描かれます。
ローカル局の女子アナになったスクールカーストの女王や、その二番手、
スクールカースト上層部に取り入ろうと必死な取り巻き、
学校一のモテ男に、影の薄い委員長など、
「どの学校にもこういう人いたよね」的な登場人物たちです。
同窓会の話でクラスのSNSは盛り上がりますが、「岸本」という女子生徒の名前が挙がったことで様子は一変します。岸本は少し変わった女の子で、的はずれなことばかり言うため周囲から浮いた存在でした。しかし、学校一のモテ男、花田に告白したことで、いよいよ周りから敬遠されるようになり、卒業を前に転校していきます。
そんな岸本がタイムカプセルにある仕掛けをしたことで、同窓会に暗雲がたちこめていき……と、少しミステリー要素も入った話です。
それぞれいろんな思惑を抱えて、同窓会に臨みます。共感できる人もいるし、何言ってんだこいつという人もいますが、私が一番可哀想だと思ったのは、同窓会幹事の磯辺くんです。
一人だけハブられた同窓会
磯辺くんは、学生時代からみんながやりたがらない委員長など面倒な仕事を率先して引き受けてきました。それが彼のポリシーで、同窓会の幹事ももちろん磯辺くん。
しかしコロナの影響で同窓会が延期に。居酒屋でバイト中の磯辺くんでしたが、そこにやってきたのはクラスメイトたちでした。
なんと同窓会が延期になったということで、別のメンバーが集まって同窓会を開いていたのです。20人弱なので普通に同窓会です。
何も知らされていなかっただけでなく、顔を見てもすぐに思い出してもらえなかった磯部くんはこれに大ショックを受けます。
普通にひどい話だと思いました。主催者は三井という女の子です。彼女は、誰にも公平に接する存在で、みんなから好かれるタイプの人間です。カーストトップの女王が唯一、「クラスの中で自分に対抗できる者」と位置づけています。
それなのにどうして磯部くんを誘わなかった三井。悪意がないのがより一層悪い。もしかしたら、その理由は私が読み飛ばしているかもしれません。だとしても磯辺くんが何も知らなかったのは事実です。
岸本から言われた「忘れられるより、嫌われる方が上なんだよ」という言葉が頭の中をグルグルする磯辺くん。クラスの中でもダントツで浮いていた岸本さんを心の中で見下していた磯辺くんでしたが、実際は自分のほうが影の薄い存在だったということが明らかになってしまいました。
失意の磯辺くんですが、彼は本当によくできた人間なので、このあと普通に同窓会幹事を続行します。メンタルが強い。普通ならできない。
磯辺くんのこのエピソードはかなりサイドストーリーなので、本筋にはあんまり関係ありません。でも、終盤のタイムカプセルのエピソードよりも、こっちのほうがインパクトがありました。
肝心の岸本さんたちの結末については、ちょっと消化不良を感じてモヤるところがありましたが、共感する人もいるのかもしれません。
とにかく私は磯部くんが可哀想で応援したいと思った本でした。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
コメントを残す