- HOME
- ミュージカル「You Know Me 〜あなたとの旅〜」後編〜南十字星のオマージュ〜
迷わず声をかける勇気すごいと思う
ラーメンとアイスを堪能した私たちは、劇場へと向かいます。
向かうは、シアター代官山。
はじめて行く劇場です。恵比寿のアイス屋さんから歩いて15分くらい。
代官山の住宅街の中に突如現れます。
劇団ひまわりの専用劇場だそうで、劇団ひまわり本社がその隣にありました。
ロビーはすでに来場者でいっぱいでした。
入って約20秒で、S子が叫びます。
「演出家の人!」
私よりも早く、演出の横山さんを見つけ出してくれました。
この日は初日なので、恐らくロビーに出ていらっしゃると予想していましたが、まさかこんなに早く会えるなんて。
横山さんにご挨拶をしたあと、我々はトイレへ向かいました。
するとそこでまたしてもS子が叫びました。
「福井先生!」
池ミュ時代にお世話になった福井先生に会うことができました。
S子の人を察知する能力は、本当にすごいと思います。
20年ぶりの先生をよく、一瞬で見つけ、しかも迷わず声をかけるのはすごい勇気だと思います。
カナダに住むとそうなるのでしょうか。
勝手に盛り上がる私たちを、先生は広い心で受け入れてくださり、一緒に写真まで撮ってくださいました。そしてまだ盛り上がろうとする我々を、トイレに押し込んでくださいました。
昭和から令和を生きた二人の女性の物語
ミュージカル「You Know Me 〜あなたとの旅〜」は、二人の女性の生涯を描いた物語です。
※ネタバレあります。
高校生のときに同じクラスだった菜々子(樋口麻美)と百合絵(吉沢梨絵)。社会人になってから偶然再会した二人は、意気投合。家庭に悩みを抱えていた菜々子を、百合絵は無理やり旅行に連れ出します。
それからというもの、二人は忙しい日々の合間を縫って、旅行をするように。
お互い結婚して子供が生まれても、夫婦仲が上手くいかなくなっても、子供に反対されても、仕事が変わっても、国内外問わず、いろいろなところに旅に出る二人。
昭和から令和を生きた二人の女性が、旅と人生の終わりに見つけるものは……。
主演二人は、同じ役を演じ続けますが、アンサンブル4人は、シーンによってさまざまな役に変わります。
高校のクラスメイトになったり、レストランの店員になったり、夫になったり、子供になったり、ダンサーになったり。出はけも多くて、忙しそうでした。
ステージ上は空舞台で、カーテンとほんの少しの小道具(主に椅子)のみ。
コロコロ変わる衣装で、年代と場所を表現していました。
圧倒的な歌唱力があれば、それくらいシンプルな舞台美術で大丈夫なのです。
ってくらい、やっぱり歌はすごかったです。
樋口さん、吉沢さんと、劇団四季レジェンドのお二人の歌を、こんな間近で聴けるなんて、だいぶ贅沢な公演です。
キレキレのバリ舞踊に釘付け
平成初期に母になった菜々子と百合絵は、その当時、まだほとんどの女性がそうであったように、家事と育児に忙殺される日々を送っていました。
そんな二人が、家族を振り切って旅行に行きまくっていたのが、印象的。
鎌倉の大仏見たり、犬ぞりでオーロラ見たり、バリで民族舞踊を踊ったり。
樋口さんのバリ舞踊が、めちゃくちゃ上手でビビりました。今回の公演は、基本歌でダンスはそんなになかったのですが、このシーンだけキレキレのダンスを見せてくれました。
いつの間にか娘をないがしろにしていた百合絵が、娘から拒絶されるところは、あーん! という気持ちで観ていました。そういう人間にだけはなりたくないと思っていたのに、いつの間にかなっているという……。
お互いの家族の問題を乗り越え、ライフステージを一つずつ終えていく二人。
また海外旅行に行こうと言っていた矢先、百合絵に病気が見つかります。
Wヒロイン、生涯を描く、二人の立ち姿から始まるオープニング……というヒントから、きっと最後は死別なんだろうなと予想はしていましたが、案の定でした。
最後まで明るく自由に生きた百合絵。
菜々子や家族に見送られ、旅立ちます。
直後は毅然としていた菜々子でしたが、数ヶ月経った頃、突然悲しみが押し寄せてきます。
このときの樋口さんの、言い表せない悲しみの演技にぐっときました。
そんな菜々子のもとに、亡くなった百合絵から、手紙が届きます。
ちょうど悲しくなる時期を見越して、手紙が届くようにしていたのです。粋!!
最高の旅と人生だったね(要約)ということで物語は幕を閉じます。
あなたのほうが知り合いみたいだね
舞台が終わったあと、ロビーに出ると、またしてもS子が、横山さんを発見。
まるで知り合いかのように声をかけ、感想をまくし立てていました。カナダに住むと(略)
「樋口さんがバリ舞踊踊っていたの、劇団四季の『南十字星』のオマージュですよね? すぐわかりました!」
普通にすごいな、と思いました。
そういえば、『南十字星』でそんな役だったなと思い出しましたが、全然ピンとこなかった。
横山さんも「よくわかりましたね!」とおっしゃってたので、かつて樋口さんの強火オタクをしていたS子も、報われたと思います。
帰り道は、劇団四季の知識に火がついたS子が、私とMIORIに、内部の者しか知らないであろう、劇団四季の知識を披露してくれました。
「自分でもなんでこんなに覚えているのかわからない」
と言っていましたが、情熱を持って追いかけていたものって、何年経っても脳に刻まれているんだと思います。
話足りない私たちは、恵比寿駅近くの、これまた毎回行くシェイクシャックに立ち寄り、マシンガントークを繰り広げ、解散しました。
最後の話題は、全員が「自分こそがHSP」と言って譲らないという、心底どうでもない話でした。
充実した観劇でした。
やっぱり、3人で観る舞台は楽しいなと改めて思います。
私たちも菜々子と百合絵のように、年をとっても、ラーメン屋からのアイス屋からの、観劇してシェイクシャックマシンガントークを、続けていけたらいいなと思いました。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
コメントを残す