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- 秦建日子『トムラウシ』〜ネットニュースが気になるキャスティング〜
舞台『トムラウシ』を観に行ってきました。トムラウシとは、北海道に実際にある山の名前だそうです。地図を見るとわかりますが、北海道のほぼ真ん中に位置しています。最初聞いたときは、カマドウマ的な秋の虫を連想しましたが、全然違いました。
Candyboyの公演でご一緒したRamin(ラミン)さんが、こちらの舞台で演出助手をするということで、観に行かせていただきました。脚本、演出を手掛けるのは、秦建日子さんです。『アンフェア』や『HERO』でおなじみの人気脚本家さんですね。舞台の演出もしてらっしゃるというのは知りませんでした。聞いた話では音楽制作もされているそうで?? 多才な作家さんです。
出演キャストを見てみると、なかなか豪華で、私も知っている名前がいくつもありました。細貝圭さん、山口真帆さん、角田信朗さん、宮迫博之さん、ゲストに小出恵介さん。ネットニュースで目にしたことのある方々ばかりで、非常にホットなキャスティングです。なんとなく、過去のニュース記事を読みたくなります。角田信朗さんと宮迫博之さんはWキャストということで、悩んだ末に宮迫さん出演回に行くことにしました。千秋楽のチケットを取れたのはラッキーでした。
場所は港区の自由劇場。前回来たのは、去年、浅利慶太事務所の『李香蘭』を観に行ったときです。千秋楽ということで、入り口は長蛇の列。会場に入る頃には、10分前とかだったので、もっと余裕を持っていくべきでした。グッズ売り場や応援メッセージ、もっと見たかった。
さて、『トムラウシ』はどんなお話かというと、簡単に言えば脱獄の話です。公式サイトには、あらすじがこんな感じで紹介されていました。
あらすじ
国による不当逮捕が横行していたある日。人気絶頂中の国民的俳優・大和仁もまた、ありえない理由で逮捕されてしまった。裁判所から下された判決は、100年の強制労働の刑。大和は、脱獄不可能といわれる雪山の牢獄「トムラウシ監獄」へと送られてしまう。牢獄で同室となった個性的な囚人たち4人は、理不尽な状況を受け入れ、トムラウシ監獄で死を迎える覚悟を決めていた。「俺は、ここで死ぬつもりはない」。先にある人生を自分の意思で選ぼうとする大和。生きる意味を掛けて、選んだのは――「脱獄」。トムラウシ監獄をぶっ潰すために大和は立ち上がった。彼らは無事にトムラウシ監獄を脱獄できるのか?そして、彼らが本当に戦うべき相手とは・・・・・・。
実際に作品を見て思うのは、このあらすじの書き方がすでに巧妙で面白いなということです。なぜ国による不当逮捕が横行しているのか、なぜトムラウシが舞台なのかということが丸っきりスルーされていますが、じつはこれらがとても重要で、要するに昨今のロシア情勢を題材にした作品です。
といっても、ダイレクトに固有名詞を出すわけではなく、劇中では、「白い巨人」と呼ばれています。白い巨人たちは、北海道を不法占拠して、日本人を統治するようになりました。
……というふうに私は理解したのですが、全然違っていたらすみません。気にせず続けます。
白い巨人たちに反するような言動を行った日本人は、問答無用でトムラウシ監獄行きです。主人公の大和も、白い巨人の反感を買って監獄行きになってしまい……というところから物語はスタートします。トムラウシ監獄では、穴を掘って埋めるというような、まったく無意味な労働を課して収容者たちの精神を削っていきます。それを100年やらせるというんだからしんどい。
その過酷な監獄を支配しているのが、ジョウスバエ・ウスグロ・カシワモチです。通称モッチ。角田さんと宮迫さんがWキャストで演じます。言うまでもなく、モッチは作中のラスボス的存在で、白い巨人の象徴なわけですが、彼自身も父親から半ば脅されるような形で日本にやってきました。好き好んで、日本を統治しているわけではないという葛藤を抱えた人物でもあります。
今回、私はモッチ宮迫が見たくて来たので、登場してくれただけで非常に満足でした。牛宮城のメニュー試食会の動画は非常に見応えがありました。
シリアスな役ですが、ちゃんと面白シーンも用意されており、「いいよ、宮迫、すごくいいよ」という気持ちで見ていました。物語の中盤で、親切な看守(多分看守)がモッチの手により暗殺されます。
濡れ衣を着せられた大和は、銃殺刑を宣告され、絶体絶命のピンチに。そこでついに、脱獄を決意するのです。どうやって脱獄するのかなと思ったら、なんとびっくり「ドン」と言うと、この監獄は崩れる仕組みになっていたのです。
その昔、なんか特定の音に共鳴して崩れ落ちる兵器? 作戦? があったとかで、この監獄にもそのシステムが組み込まれているとか、そういう設定だったと思います。運良く、その秘密に気づいた大和は、和太鼓を使って「ドン」という音を響かせ、監獄をブチ壊し逃げることを目論みます。ところが、すったもんだの末に宮迫モッチに撃たれる大和と仲間たち。暴動の中、モッチも自らの頭を撃ち抜きます。
倒れた大和たちの上に、無情にトムラウシ監獄が崩れ落ちる……という、衝撃的なバッドエンドです。
ただ、これで終わりではありません。この事件はそもそもどうして起きたのか? ということで、少し時間を巻き戻します。シーンは、大和が収容される事件を起こしたその時間。白い巨人に忖度した台詞を、言うか言わないかでマネージャーと揉めている大和。台詞を言いさえすれば監獄送りは回避されます。しかし、NOと言えば、監獄送りです。一度は頷いた大和でしたが、最後の最後で彼は拒否するわけです。
このシーン、ただの巻き戻しかと思って見ていましたが、もしかすると、別の世界線だったのかなとも思いました。別の世界線でも、やっぱり大和はNOという、みたいなやつかもしれません。
わかりません。教えてください。
だから、お芝居って誰かと観に行くのがいいと思います。
「簡単に諦めるな」「諦めなければ、道はある」
という台詞が、要所要所で繰り返されるのが印象的でした。
また、この舞台ではじめて大湖せしるさんを見ましたが、とても好きなお芝居をしていました。イキイキしている役者さんは好きです。千秋楽だったので、カーテンコールでは舞台上から最後の挨拶がありました。主演の石黒英雄さんが、「Wキャストの角田さんが、今日この会場のどこかで……」と言ったら、隣の隣の席から、「ハァイ!!」という大きな声が聞こえました。角田さんでした。
まさかこんな近くに座っているとは思いませんでした。
思ったよりも社会派のお芝居でしたが、それだけじゃなく、面白だったり和太鼓の生演奏だったりエンタメも十分感じられる舞台で大変良かったです。他人事だと思って無視するのではなく、明日は我が身と思わなければ、大和たちのようにトムラウシ監獄と心中する未来が待ってるかも、みたいなメッセージなんだと思います。
わかりません。違ったら教えてください。
次に自由劇場に行くのは、『ジーザス・クライスト・スーパースター』でしょうか。『ジョン万次郎』はどうしようかな。悩んでいます。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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