- HOME
- 『#真相をお話しします』〜カテキョなのか家教なのか〜
王様のブランチだから間違いない
結城真一郎さんの『#真相をお話しします』を読みました。
私は見ていないのですが、王様のブランチか何かで紹介されていたそうです。短編ミステリーですごく面白いということで、どうやら売れ筋みたいです。収録作品は5編で、それぞれ独立したお話しです。面白かったです。各作品のテーマが、どれもすごく今っぽい。
作品の紹介はしますが、ネタバレしませんのでご安心ください。
1本目『惨者面談』の主人公は大学生。
高学歴を活かして家庭教師のアルバイトをしている主人公。各家庭に自ら赴いて営業もこなす。成果報酬であるため安定はしないものの、稼げれば月20万円は行く割の良い仕事。そんなある日、営業に訪れたお家で、不可解な体験をする…というストーリー。
まず家庭教師バイトの実態のほうが気になりました。大学生でそんだけ稼げたらたいしたものですね。ネタバレになるので多くは言いませんが、最後にちょっとした仕掛けがあって、それにびっくりします。どんでん返しですね。全然関係ないですが、中学生の頃、家庭教師を「カテキョ」と言うか「家教(かきょう)」というかで周りは二分していました。私は家教派です。なんとなくそっちのほうが格好いいと思っていたからです。
2本目は『ヤリモク』。
マッチングアプリをテーマにしたミステリーです。主人公は42歳の男性。32歳とサバ読んでマッチングアプリをしています。見た目は若々しいから多少サバ読んでも大丈夫と言っていますが、10歳はさすがにやりすぎじゃないですか?
「もしバレても、サバ読んでますよねとは言えないだろう」的なことを言っていますが、まさにそのとおりです。明らかに年齢サバ読んでる人に、本当は、なんて口が裂けても言えません。昔、バイト先の寿司屋に来た、サーファー風の男性は、どう見ても50歳近くに見えましたが、35歳と言っていました。その場に4人ほど居合わせましたが、誰もツッコむことができなかったのを覚えています。
そんな気持ちを思い出しつつも、この男性の場合は特に年齢をツッコまれることなく、出会った女性といい感じに事を進めていきます。ところがその後、事態は思いがけぬ方向に…という展開です。
会話を注意して読むのがおすすめです。
3本目は『パンドラ』。
精子バンクがテーマです。15年前に主人公が精子提供をして生まれた子供が、はじめて自分に会いに来ることに。その理由に主人公は困惑してしまいます。まさにパンドラの箱です。ちょうど15年前に起きた殺人事件とも関係しており、整合性求めるために、もう一回読み返そうという気分になります。
4本目は『三角奸計』。
リモート飲み会をすることになった主人公たち「いつものメンバー」。ところがリモート飲みの最中、メンバーの1人から主人公に物騒なメッセージが届きます。それは、まさに今飲んでいるメンバーの1人を殺しに行くというもの。慌てて止める主人公ですが、そうこうしているうちに彼は画面の中から消え去り…。リモート飲みあるあるや、Uberを使ってのトリックなど、設定をうまく使ったミステリーでした。
一番好きなのは5本目
最後の5本目は『#拡散希望』。
収録作品の中に表題作はないのですが、ハッシュタグついているのは5本目だけなので、事実上これが表題作なのだと思います。主人公は小学生の少年。彼は両親の意向で、生まれてからずっとある島で暮らしています。島にいる同級生は彼を含めて4人。みんな仲良くやっていたのにある出来事がきっかけで、溝ができてしまい…。
テーマを言うとネタバレになるので伏せますが、個人的にはこの作品が一番面白かったです。物語の展開が読めず、最後になって「なるほどそういうことか」というAHA体験がありました。
他の作品に違わず、現代ならではの問題をテーマにしており、なんなら実際に似たようなことがあるのではと思わされます。また、どの作品も共通してタイトルがいいと思いました。作品を象徴する一言で、揃えています。潔いです。
文字も大きいし、短編だし、普段本を読まない人も楽しんで読める一冊だと思います。本格派ミステリー好きの方からすると、やや物足りないかもしれませんが、移動中とかライトに読みたいときにうってつけです。
じつは今、図書館で借りたエラリー・クイーンの『Yの悲劇』を読んでいる途中なのですが、一向に読み終わる気配がありません。そろそろ貸出期間も終わる。言うまでもなく面白いのですが、ちゃんと読まないと犯人を取りこぼしそうなので、時間がかかります。今日中に犯人を突き止めて、図書館に返したいと思います。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
コメントを残す