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舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男』〜不気味なパンフレット〜

2023.05.01

『イノサン』ではマリー様が好きでした

舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男』を観てきました。

フランス革命時代に実在した、シャルル・アンリ・サンソンという死刑執行人の半生を描いた作品。主演のシャルルを稲垣吾郎さんが演じます。

2021年に上演されたものの、コロナの影響で中止に。2年かけてようやく「再始動」を迎えたとあって、出演者もスタッフにも並々ならぬ想いがあったようです。

原作は、安達正勝さんの『死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男』という本なのですが、公式サイトには【坂本眞一『イノサン』に謝意を表して】という一文があります。『イノサン』は、安達さんの『死刑執行人サンソン』を出典に描かれた漫画です。

『イノサン』1巻。

そもそもこの舞台のアイデアは、稲垣吾郎さんが出演する『ゴロウ・デラックス』の企画で、坂本先生の仕事場を見学したことから生まれたそうで、そういう意味での「謝意」なわけですね。

私はこの坂本眞一先生の『イノサン』が大好きで、過去にはダ・ヴィンチWebで

『主人公を喰う脇役! 耽美系マンガ『イノサン』の美女マリーが残虐なのにカッコイイ!』というレビューを書いたこともあります。お察しの通り、『イノサン』ではマリー様が好きでした。また、当時同僚から「あのレビュー、ギリギリ失礼だけど面白いですね」という金言をいただきました。

吾郎さん演じる、屈強な大人のシャルル

会場は、池袋のブリリアホールです。

フクロウがいました。

1248席を有する大きな劇場の、私は3階席のこのへんにいました。

ステージまでは遠いですが、全体を見渡せます。あとこの席、音の聴こえ方が良い気がしました。クリアに聴こえる。

ざっくりあらすじです。

舞台は1700年代のフランス。シャルル=アンリ・サンソン(稲垣吾郎)は、父・バチスト(榎木孝明)の仕事を受け継ぎ、パリで唯一の死刑執行人“ムッシュー・ド・パリ”となる。国王の命令のもと、罪人を次々処刑していくシャルルだったが、自身の仕事の在り方に次第に疑問を募らせていくようになる。
そんなある日、「親殺し」の罪で車裂きの刑を宣告された男、ジャン・ルイが、市民たちによって刑場から奪還される事件が起きる。この顛末を目の当たりにしたシャルルは、いっそう、国家と法、刑罰のあり方について、思考を深めるようになり……。

死刑執行人という職業はなくしたいけれど、王様にはそのままいてほしい。そう望むシャルルでしたが、フランス革命によって、自らルイ16世を処刑することになります。自身の望みとまるっきり逆方向に行ってしまったわけです。皮肉ですね。

ルイ16世の処刑に至るまでがストーリーの主軸ですが、その合間にマリー・アントワネットの首飾り事件や、デュ・バリー夫人との友情、若きナポレオンとの遭遇などが描かれます。そうした様々な経験を経て、シャルルは一人の人間として成長していくわけです。

そのシャルル演じる吾郎さんですが、すごく良かったです。

舞台上の吾郎さんを観るのははじめてでしたが、声がすごく太いので最初違う人かと思いました。

『イノサン』のシャルルは、か弱くて泣き虫の美少年という感じだったので、そんなイメージをしていましたが、吾郎さんのシャルルは全然違いました。屈強で分厚い大人の男という感じ。それもまた良し。

そして遠目でもわかるスタイルの良さ。もっと近くで観たかった。

ド根性が魅力の女性キャラクター2人

さて、マリー・アントワネットらが登場する王宮のシーンでは、ロココなドレスがたくさん出てきてとても可愛かったです。舞台で派手なドレスがたくさん見られると得した気持ちになります。

そういえば、マリー・アントワネット役の方の声が印象的でした。よくあるイメージとしては高くて可愛らしい感じの声だと思うのですが、このマリー・アントワネットはちょっと怖そうな低い声。オシャレで浪費家なマリー・アントワネットではなく、愚かな王妃っぽい感じをイメージしたのでしょうか。観た方どう思いますか。

劇中ではわりとさくっと片付けられてしまいましたが、首飾り事件の犯人であるラモット夫人が好きでした。首謀者として逮捕されて罪人の焼印を入れられるラモット夫人。なりふり構わない感じが面白かった。

デュ・バリー夫人が最後、処刑台に連れて行かれるシーンも見どころだったと思います。史実でも、友人であったシャルルに命乞いをしたと言われており、こんな感じだったのかなぁと思わせるお芝居でした。

ラモット夫人もデュ・バリー夫人も、どちらも貧しい出自から王宮に乗り込んでいったド根性の女性なので、キャラクターとしてはとても魅力的です。やったことはよくないけど。

クライマックスは怒涛のギロチンシーン

で、この舞台の一番の見どころはなんといってもギロチンシーンです。

「もっと人道的に処刑できる方法はないか?」ということで、作られたのがギロチン。残酷な処刑道具に思われますが、それまで剣で首をはねていたに比べるとだいぶマシになったというのが当時の人々の感覚だったそうです。

舞台中央に、大きなギロチンが登場します。刃物は布で出来ていると思ったのですが、どうやら普通に固い何かでできているらしい。実際には切れないとわかっていても、あの下に入るの嫌だなぁと思いました。それくらい存在感がある。

中盤までは、あまりギロチン活躍しないのかなと思って観ていたのですが、クライマックスでは、怒涛のギロチンラッシュがはじまります。

ルイ16世、マリー・アントワネット、ロベスピエールらが、次々ギロチンにかけられていきます。残酷だけど派手だ。

それから十数年後。処刑人としての職務をまっとうしたシャルルは、古い仲間たちと再会し、新しい時代について語ります。ナポレオンが皇帝となったフランスはそれからどうなるのか……というところで幕です。約2時間25分(休憩20分含む)の舞台でした。

不気味な手形がついたパンフレット

今回のパンフレットがこちらです。

カッコいい!

大規模な商業公演の場合、パンフレットは通常、1800〜2000円くらいが相場ですが、こちらのサンソンのパンフレットは2500円。まぁまぁなお値段です。

しかし、おわかりいただけるでしょうか。めちゃくちゃ気合い入っているのが。

表紙がハードカバーです。

箔押しっぽい加工でサンソン家の紋章が描かれています。割れた鐘を2頭の犬が眺めている図柄です。「サンソン」を、「サン=無い」と「ソン=音」に分けると「音が無い(Sans Son)」といった意味になるため、この図柄になったそうです。

ダジャレ的に決まるんか〜いと思う一方で、割れた鐘にどこか不気味な印象を受けます。

表紙の手に持つ部分には、不気味な手形の加工。血のりのような、あるいは長年誰かが読み込んでいたような。裏表紙もそんな感じで年季が入っている。最初はあれ? 汚れかな? と思いましたが、公式サイトでも同じ柄だったので、こういう加工のようです。

内容は、キャストインタビューのほか、サンソン家の歴史や、フランス革命の解説が載っています。作品を楽しむための予備知識程度の情報量なので読みやすいです。歴史物の作品のパンフレットはこういう読み物が充実していていいと思います。

これなら2500円するでしょうね。

全然関係ないですが、ブリリアホール近くに『egg 東京』というカフェがあります。

おすすめです。卵好きな人はぜひ行ってみてください。今卵高いのでメニューがどうなっているかはわかりませんが。

タイムリーに昨日は『まつもtoなかい』の初回放送でした。中居くんと慎吾ちゃんの共演にみんな盛り上がっていましたね。
番組中、木村拓哉と草彅剛のCMはあったそうですが、吾郎さんのCMはなかったと聞きました(本当?)
吾郎さんもサンソンで今頑張ってるよと伝えたいです。

以上、サンソンでした。

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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