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野田秀樹『パンドラの鐘』〜WOWOWにも課金しないと駄目か?〜

2022.06.26

演劇的事件だったそうです

『パンドラの鐘』を観てきました。先月の堤真一の『みんな我が子』以来、1ヶ月ぶりのシアターコクーンです。群馬県伊勢崎市が史上最速で40度を記録したとかで、外に出るのをビビっていましたが、夕方は気温も下がり、風もあったので、そこまで暑くないといいながらも、会場着くまでにめちゃくちゃ汗かきました。やっぱり暑い。

『パンドラの鐘』は、ポスター格好いいですよね。

成田凌くんも葵わかなちゃんも特にファンなわけではありませんでしたが、このポスターはすごく良い。蜷川実花です。宣伝美術の与える影響は大きいです。なので、この作品が1999年に野田秀樹と蜷川幸雄がそれぞれ同時期に上演し、演出対決が大きな話題になったということなどは全然知りませんでした。ガラスの仮面みたいなことがあったんですね。前知識はそんなものしかありませんでしたが、とりあえず戯曲を読んだけど、よくわからなかった。戯曲って読むの難しいですよね。でも実際舞台観たら、きっと意味もわかるだろう。

野田秀樹の作品は、2010年の『農業少女』に続いて二度目です。松尾スズキ演出であれも面白かったけど、今回の演出は、杉原邦生さん。39歳の若手イケイケドンドンな演出家ということで、楽しみでした。

上演前の舞台は、中央にステージと4本のみ。能舞台のようです。ほかは何もセットされていない裸状態なので、搬入用のドアも丸見えだし、舞台袖のドアも見える。上演時間になっても照明が落ちないなと思っていたら、客席後方から成田凌くんが登場しました。そして突如、舞台奥と上下に紅白の弾幕が下りて、ステージが完成します。めでたい感じがするし、役者が袖に引っ込むたびにヒラヒラするのがいいですね。

続々と役者が登場する中で、ひときわ目を引いたのは、やはり白石加代子さんでした。80歳とは思えないけど、80歳にしか出せない役者オーラ。覇王色。白石加代子さんは、2008年、彩の国さいたま芸術劇場での『身毒丸 復活』、2012年、世田谷パブリックシアター『サド侯爵夫人』を見て以来、三度目です。前回見たときから10年以上経っているわけですが、凄みが増すばかりで、本当にすごい方だと思います。

酸欠にならない強靭な肺活量

物語は、古代と現代をいったり来たりしながら進んでいきます。

太平洋戦争開戦前夜の長崎。現代人が発見した古代の遺跡「パンドラの鐘」。研究を進めていくうちに、そこがかつて海賊の王国で、さらにヒメ女という女王がいたことが判明する。なぜ数千年もの間、ヒメ女は歴史から葬られていたのか、さらに研究を進める。

時代は遡り古代の王国。亡き王のあとを継ぎ女王となったヒメ女。王の棺桶を一緒に葬式屋も埋めようとするが、その中の1人ミズヲに惹かれ、命を助ける。あるときミズヲは異国の地で見つけた巨大な鐘をヒメ女のもとへと持ち帰るが……。

巨大なパンドラの鐘をめぐって、現代人と古代人の物語が進んでいき、最後は幻想的に交錯していくというストーリーです。太平洋戦争前夜ということからもわかる通り、戦争がひとつのテーマになっています。パンドラの鐘に記された秘密が、古代王国が滅亡した理由に繋がり、ひいては太平洋戦争で長崎に落とされた原爆へと繋がっていくわけです。

戯曲の構成力やセリフの巧みさは、初演から23年経っても色褪せないし、素晴らしい戯曲には普遍的な美しさがあります。読んで意味はわからなくても、気持ちは伝わってくる。さて、この作品は、セリフも多いし、動きも多い。加えて役者がとにかく、エネルギッシュな芝居をするので、冒頭から熱量がすごい。アンサンブルやダンサー含めた役者の数も多いし、出入りもたくさんあるし、小道具も頻繁に出てくるので、誰か1人でも集中力切れたら大変なことになりそう。


成田凌くんに関しては、まくしたてるような話し方で、かつ長台詞も多いので、酸欠にならないか心配になりました。葵わかなちゃんも、声可愛い。笑顔可愛い。前田あっちゃんは、スタイルめちゃくちゃいい。特徴的な声も可愛くて、タマキの役に合ってました。タマキの母親役の南果歩さんは、すごく振り切った芝居してて見てて元気になります。稽古場でも自分でBGMや振り付けを用意してアイデアどんどん出してたそうです。柄本時生さん、あっちゃんと仲良しなんだよなって思った。2人のシーンもっと見たかった。片岡亀蔵さんは、作中のサプライズに鳥肌が立ちました。葬式屋さんチームも楽しかったです。杉原さんのおなじみにチームだそうですね。ダンサーの方々も気迫あふれる身体表現が、作品を盛りに盛り上げていました。

おい、WOWOWにも課金するのかよ

物語が進み、いよいよ物語のキーポイントになるパンドラの鐘が登場です。思ったよりも巨大な釣り鐘で、それが舞台の中央にでーんと置かれます。公演パンフレットによれば、本作での鐘は、長崎に落とされた原爆ファットマンをイメージしているそうです。そこに能の『道成寺』や、紅白弾幕のめでたいイメージが加わって、混沌としているような、整然としているような、そんな不思議な印象を受ける舞台になります。しかし派手。

そして個人的にすごいなと思ったのが、照明です。過去を回想するシーンで、成田凌くんと葵わかなちゃんがモノクロになったので、驚きました。写真みたい! 照明を担当されたのは、高田政義さんという方でした。

クライマックスでは、王国を守るため、ヒメ女は自分を犠牲にすることを選び、ミズヲとは永久に離れ離れになります。

「俺は、届くに賭けますよ」

成田凌くん、格好いい。好きです。舞台初出演とは思えないほど、堂々とした演技でした。ところで、1999年、野田秀樹バージョンでミズヲを演じたのが、堤真一だったんですね。堤真一で最後のセリフ聞きたい。そう思ってしまいました。そうしたら、今年の秋、WOWWOWで放送するというじゃないですか。蜷川幸雄バージョンも。なんて幸運でしょうか。そのためにWOWOW加入することは、やぶさかではありません。私は一体いくつ動画配信サービスに課金するのでしょうか。

話を現代に戻して、『パンドラの鐘』は本当にいい舞台でした。もうあと3日くらいしかないけど、おすすめです。杉原さんは9月にも『血の婚礼』で演出されるそうなので、こちらも観に行きたいなと思っています。

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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