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より先生の楽しいミュージカルライフ!:集客編

2023.09.01

【はじめに】Q.なぜあなたは演劇を続けているんですか?

初回公演で300席を満席にした秘策

平日は公立中学校で教員として働きながら、週末は自ら立ち上げたミュージカル団体の主宰として活動する本村よりさん。9年間の活動の中で、13回公演を実施。累計3000人超の観客を集めた実績を持つ。最終回は集客方法について。毎公演満席を達成するミュージカル団体の集客方法の秘密とは?(第2回/全3回)

第1回 より先生の楽しいミュージカルライフ!:創立編
第2回 より先生の楽しいミュージカルライフ!:資金繰り編

知人以外の集客を目指してFacebook広告でブーストをかける

ここまで稽古の組み立て方や、資金繰りについてお聞きしました。今回は集客についてお聞きできればと思います。『Project R』と『R’s labo』のこれまでの公演数と集客動員数を教えていただけますか。

お客様を入れての公演、コンサートは、全部で13回やりました。ざっくり年に一回くらいのペースですね。

そのうち、キャパシティ300席の大きいホールを使っての公演は5回。ありがたいことに全部がほぼ満席です。1回につき2公演やるので、動員数は600人。それが5回なのでざっと3000人ですね。小さいホールでやるときは10〜30人キャパの会場なので、全部併せたら200人くらいでしょうか。累計は3200人くらいだと思います。

私も『WICKED』を観に行きましたが、驚きました。会場の広いエントランスに長蛇の列ができていて、会場内も満席。どうやってこんなに人を呼べたんだろうと不思議でした。

『WICKED』や『レ・ミゼラブル』は、キャスト、スタッフ全員で50名くらいの大所帯。なので、それぞれが家族や知り合いを呼べばまぁまぁの人数は入るかなというのが一つ。

もう一つは、私の情熱です(笑)。最初の公演ということもあったので、「たくさんの人に見てもらいたい!」という意欲がすごかったんです。なのでFacebookで広告を出すことにしました。費用は自分でカスタマイズできて、私は一回500円くらい※。それを3ヶ月続けました。結果的にこれで人が集客には成功しているので、効果はあったんだと思います。 ※500円(1000回の表示に対して100円)

とはいえ、いくらFacebook広告を出したとはいえ、そんなにうまく人は集まらないんじゃないかなと思うのですが。

それは多分、ブロードウェイの力もあると思います。『WICKED』は名作で、ものすごい数のファンがいます。それを無料公演するって、一体なんだろう? と興味を持った人がたくさんいたんじゃないかなと。

なるほど。ところでそもそもブロードウェイ作品なのに、公告を出して大丈夫なのでしょうか。

無料公演の場合は大丈夫なんです。また、私の場合は教員でもあるので、目的が教育であるということで、諸々許されております。これが有料公演だと規約に引っかかるので広告は出せません。ほかに、録画した動画をネットにフルサイズでUPしないなどの条件もあって、それらをクリアすれば広告を出すことができます。

9年間続けてきたことで身についた、意外なスキル

『WICKED』のときに観た長蛇の列の謎がようやく解けました。

ただ、さっきちょっと話に出ましたけど、キャストの方ももちろんお客様を呼んでくれます。でも途中で気持ちにストップがかかってしまうキャストもいるんです。

気持ちにストップというのは?

稽古を続ける中で、自分たちの舞台のクオリティにだんだん不安が生まれてきちゃうんです。「こんな形の公演は見せられない」とか「このグループの宣伝はできない」とか。よく言われました。

結構辛辣なことを言われるんですね。

はい。私も最初は戸惑いました。でも回数をこなすうちに、キャストの悩みや不安を受け止める余裕がちょっとずつ出てきて、そういう対処も慣れてきたんです。「今の段階だったらそう思うのも無理ないよね。でもここからどんどん変わるから大丈夫」と、自信を持って伝えられるようになりました。前のインタビューで降板問題についてお話しましたが、最近は降板はほとんどないんです。体調不良などの仕方ない理由はありますが、運営に納得できないと言われることはなくなりました。

でもたしかに、一回目の公演をキャパ300の舞台でやるとなったら、ちょっと怯んでしまう気持ちもわかります。

本当にそうです。なんのノウハウも実績もない団体が、いきなりそれだけの規模の公演をって、なかなかいないと思います(笑)。でも、最初に自分の一番やりたいことを全力でやったおかげで、私たちのカンパニーの意義や、やりたいことが、来てくださった方に伝えられたと思うんですよね。そのおかげでリピーターの方もたくさんできたので、最初に頑張って良かったです。

たくさんの障害もあったと思いますが、ミュージカル団体の主催を9年間続けてきてよかったと思うことはどんなことですか?

意外な答えになってしまうかもしれませんが、英語力がついたことですね(笑)。作品によっては、海外から台本を取り寄せて、自分で翻訳します。つい最近やった『パーソナルズ』というミュージカルもそうで、これは途中挫折したり、放置期間を含めて、翻訳するのに4年かかりました。まさかこんなに英語を勉強し続けるとは思わなかったですね。

あとはやっぱり、この9年間でたくさんの人と繋がれたことは本当に財産です。私だけじゃなくて、Project RとR’s laboに関わった人たちを、いろんな人と繋げることができました。

私のミュージカル研究は、お金にはならないし、成果も目には見えないし、いつ役に立つかわからないものなんだけど、それでも人を繋ぐことができたことで、少しは意味があったんじゃないかなって。

『R’s labo』が目指すこれから

これからミュージカル団体や劇団の主催をしたいという方にアドバイスはありますか?

集客やお金のこと以外でいうと、周りの団体との関係性をいかに上手く築くかということですね。ミュージカル団体をやっていると、キャストやスタッフが、別の団体の公演に呼ばれることも多いんです。いつもとは違うメンバーの中に入ることで、新しい発見がたくさんあるのでそれ自体はすごく良いこと。ただ、なかには他の団体のメンバーをヘッドハントのような形で奪っていく人もいるので……そういうのはなるべくないほうが、お互い気持ちよく活動を続けていけますよね。意外とそういうところも大事だったりします。

あと、目的をはっきりさせておくことは大事かと思います。うちの場合は、その作品をやる目的、コンサートをやる目的、それがブレなければたとえ集客がうまくいかなかったとしても、キャストの事情により公演が中止になったり、延期になったとしても、その作品を精一杯学んで稽古ができた時点で8割方成功だと思っています。震災で公演がなくなったことが、活動に生きています。

最後に、よりさんが今後目指していることを教えてください。

個人としての目標は、実力をもっと上げること。私は、歳を取っても芸術活動に携わっているというのが人生の目標なんです。そのためには舞台に上がるだけのスキルをずっと伸ばしていかないといけないと思っています。これまで通り勉強も続けつつ、役者として、演奏家としてはほかの団体の舞台にも立って様々なことを吸収していきたいです。そしてR’s laboでの研究は定期的に本番を設けて、自分のアウトプットもしていければと思っています。

団体の目標としては、とにかく継続。続けることだけですね。女性だとライフイベントも多くあって、たとえば妊娠、出産で稽古に出られない、舞台に立てないという時期があると思うんです。そういう人でも、うちのカンパニーなら子連れでの稽古をよしとしていますので、無理のない範囲で舞台に参加ができます。そのためには周りの人、出演者、スタッフの家庭等の理解も必要だけど、なんでも実験!がうちのモットーなので、やってみて無理が生じたり、誰かが嫌な思いをしたら別の方法を考えればいい。そうやって新しい試みをどんどん取り入れていけたらと考えています。

公演についても、昔はどれだけブロードウェイに近づけるかクオリティーをあげるかばかり考えていました。でも今は、お客さんが作品を知らなくても「ミュージカルって気軽にみられるものなんだな」とか「知らない作品だったので観られてよかった」と思うようなものを作りたいんです。それが、ちゃんとチケット代に見合わないとダメなんですけどね(笑)まぁ、それこそ、腕の見せ所です。

〈了〉

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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