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『橋爪功リーディングシアター』〜だいすきな功に会いに行く〜

2022.07.02

5千円で功の声が聞けるなんて

昨日7月1日は、パルテノン多摩のリニューアルオープンでした。1年半をかけて大規模改修し、劇場やロビーなど一新したようです。リニューアルオープン企画として、ここから数日間バババと公演が続くのですが、その第一弾が、橋爪功のリーディングシアターでした。

橋爪功は、演劇集団円『ウエアハウス-circle-』で一度観たことがあります。2011年、世田谷パブリックシアターでの公演です。このときの橋爪功の演技は、とても素晴らしいものでした。なにげなく観ていても、橋爪功の台詞になると、思わず前のめりになるような感覚です。話し方や抑揚の付け方、手振り身振り、すごい役者だなと思いました。

わりと静かなストレートプレイで、物語の内容自体はそんなに覚えていないのですが、橋爪功の演技だけはなぜか鮮明に記憶に残っています。またどこかで観に行きたいなと思いつつもタイミングがなく、映画でお茶を濁しているときに、リーディングシアターのお知らせを発見しました。5千円で功の朗読が聞けるなんて、なんてお得なのだと、直感的に申し込みました。

そしてついにやってきました、昨日のことです。

リニューアルオープンと言いつつ、パルテノン多摩ははじめて行きます。なのでリニューアル前を知らないのですが、たしかに綺麗になっていたと思います。

奇妙に斜めなのは、歩きながら撮影したからです。

ところで、新しい舞台の最初の公演を「こけら落とし」と言いますが、漢字で書くと「杮落とし」と書きます。果物の「柿」の字によく似ていますが、つくりだかへんだか、とにかく右側の部分が違うので、違う漢字です。

ところがなぜか私は、新しく作られた舞台は「こけら落とし」、リニューアルで再会した舞台は「かき落とし」と、謎の思い込みをしていました。それも何年もではなく、つい最近までそう思っていました。

「リニューアル公演の場合は、かき落としって言うんだ」と、納得していました。

なにかの記事を読んで勘違いしたのでしょうか? 危うく友達に「これは、かき落としと読むんだよ」と言うところでした。ギリギリでした。誰にも言わないまま、間違いに気づいてよかったです。今日もまたひとつ、気付き、成長できました。

さて、橋爪功のリーディングシアターは、小ホールで行われました。座席数は269席(車椅子席4席含む)。舞台の見やすさをアップし、音響・照明設備もグレードアップしたそうです。

平日の昼間の公演ですが、さすが功、会場は満席でした。幕が上がると、薄闇の中に橋爪功とピアノ演奏を務める阿部篤志さんの姿が見えます。橋爪功がゆっくりメガネをかけるのですが、紐かからまってしまったのか、ややモタモタしていました。可愛い! でもちゃんと音の終わりに合わせてセッティング完了できてたのでよかった。黒シャツに黒いチノパンのブラックコーデ功です。

演目ひとつめは、芥川龍之介『桃太郎』です。

おとぎ話の桃太郎を、芥川龍之介がパロディ化した作品で、桃太郎が悪役として描かれています。ちょっとだけブラックですが、ユーモアたっぷりで面白い作品です。青空文庫で読めます。

私は、橋爪功の話す台詞が好きなので、10年数年ぶりに生で聞けて感激しました。声のハリや声量は昔とまったく変わっていません。80歳!! とは思えないほど、艶っぽい声をしています。先日観た白石加代子さんもそうですが、上手な役者さんは声がいいですよね。いくつになっても。声って大事。

桃太郎の素っ頓狂な話し方や、家来たちのもじもじした話し方など、役によって使い分ける功も面白かったです。表情まで素っ頓狂になる。この作品での桃太郎は無慈悲なやつで、鬼退治に行く理由も特にあるわけでもなく、ただの略奪者です。鬼をさんざん殺した挙げ句、金銀財宝を奪って故郷へ凱旋します。しかし、そんなことをして生き残った鬼が黙っているはずもなく、今度は桃太郎が命を狙われる、というダークな終わりでした。さらっと猿ときじが殺されていました。

2つ目の演目は、新美南吉の『花のき村と盗人たち』です。

新美南吉といえば、ごんぎつねですね。これも子供向けの、いいお話でした。

盗人のおかしらと、子分たちの会話が面白かった。途中、おかしらが笑いながら泣くというシーンがあるのですが、「ふっ」とか「ぐっ」とか、声にならない声を台詞にするのがすごいですよね。やれって言われたら、きっとすごく不自然な「ふっ」になると思います。上手な役者さんはそういうところもうまい。

夕方のネカフェは通常よりとても混んでいるので気をつけろ

休憩15分を挟んで、最後のひとつは織田作之助の『夫婦善哉』です。

和装に着替えた橋爪功が登場します。朗読の前に、夫婦善哉についての補足を話されていました。

14歳のときにはじめて映画の夫婦善哉を観た橋爪功。なぜかこの作品に心を掴まれたそうです。以来、いつか夫婦善哉の朗読をやりたいと思っていたそうで、やっと今回叶ったというわけです。しかし、まともに読んだら2時間以上かかるということで、前半はあらすじを話して、後半1時間くらいを朗読するという形でした。

好きな作品なだけあって、この日一番熱がこもった読み方だったと思います。

遊び好きのボンボン男の柳吉と、芸者の女・蝶子が駆け落ちして、いろんな仕事に失敗しつつも2人で身を寄せ合って生きていくという話しです。まともに仕事せず金ばかりせびる柳吉のどこがいいのか、蝶子の気持ちはまったくわかりませんが、そういう人もいるんだろうなぁと思いました。

ふすまをしめる、手をふるなど、橋爪功のちょっとした仕草も、美しくてよかったです。

クライマックス、照明が次々に変わったかと思うと、舞台奥のホリゾント幕が上がり、袖幕もあがり、ステージ全体が丸見え状態に。リニューアルオープンならではの演出で、空の状態の舞台を見てくださいとのことでした。なるほど。こうして約2時間20分の公演が終わりました。猛暑でしたが、観に来て本当によかったです。

普通のリーディングシアターだと、もっとあざとい読み方になりそうなところですが、橋爪功レベルになると、一本の芝居になります。台詞を噛んでも、ページをめくる手が遅れても、それもまた味わい深くて良い。阿部さんのピアノ演奏もよかったです。リーディングの邪魔にならない、でも印象的な音楽は、舞台をすごく華やかにしてくれました。調べたらこの方、大学は法学部なのに、独学でピアノを学ばれてプロになった異色のピアニストだそうで、それはそれで気になりました。

パルテノン多摩には、ほかにも大ホールやオープンスタジオがあり、こちらもしばらく、公演の予定が詰まっているようです。また、WEB会議ができるクリエイティブラボや、調理実習ができるキッチンラボなど、多目的な活動ができるスペースも新設されています。ここ最近、新しくできる施設には必ずといっていいほど、こうしたワークショップができるスペースがあるように思います。図書館やホテルとかも。流行っているんですかね? 今回、小ホール以外はまったく見ていないので、次の機会にまた見学できればと思います。

帰りはぜんざいでも食べようかと思いましたが、資料探しの必要があったので、新宿のネットカフェに行きました。暑さのせいか、どこのネカフェも夕方はとても混んでいます。利用される方は気をつけてください。

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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