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- 舞台『メディア/イアソン』最終回〜こっちのほうに進んでいく〜
前回、後編と言いつつ終わらなかったので、今回が最終回です。
舞台『メディア/イアソン』前編〜メディアよしお〜
舞台『メディア/イアソン』後編〜こういう人、ギリシャにもいたんだ〜
この作品、登場人物がとても多いのですが(20人くらい)、なんと今回は5人で演じられていました。
悲しい子供たち
冒頭、3人の子供たちの会話から始まります。
恐らく、もう殺されてしまったあとなんだろうな、と思わせる。
2対1の構造になっており、一人はなんだか意味深だ。
どうやって展開していくのかなと思ったら、この3人の子供たちが、一人数役を次々演じていくスタイルでした。
子供かと思ったら、王様になったり、船員になったり、女中になったり。
衣装を少し変えて、演じ分けていくのですが、出はけも多くて、忙しそうだった。
ひょっとして、舞台上の小道具の転換も彼らがやっていたのか……?
そして、私が大好きなやりたい放題のメディアを南沢奈央さん、
ナチュラルクズ男のイアソン(褒めてます)を井上芳雄さんが演じます。
南沢奈央さんの出演作を観るのは多分初めて? だと思います。
なんとなく大人しそうというか、控えめなイメージのある役者さんですが、今回は終始情熱的で猟奇的なメディアを演じていて、とても印象に残りました。
ドラクロワの絵画からは、神秘的な病んでる人(褒めてます)というイメージだったので、こんなに感情豊かなメディアだとは思わなかった。意外性でGOODでした。
井上芳雄さんは、2008年に、ミュージカル『ウェディング・シンガー』を観に行きました。上原多香子さんとのW主演。
正直、井上さんのことはあまり覚えていないのですが、上原多香子さんの足がめちゃくちゃ細&美脚だったことだけははっきりと覚えている。顔が美しいのに、それでは飽き足らず足も美しいなんて……と思いました。
クズ加減がちらりと見えちゃうイアソン
3人の子供たち、もとい、早替え役者たちが、忙しなく物語を進行していく中で、メディアとイアソンはまるで自分たちの物語に没頭しているかのようでした。
特にメディアは自分のことしか考えていないんだろうな。
芝居だけでなく、たまに歌ったり、踊ったりもします。ギリシャ劇っぽいですね!!!
興味深かったのは、物語の前半、メディアのおかげで金羊毛をゲットしたときのことです。
金羊毛を手に入れたイアソンは、「ぐは…ぐはははは…グハハハハハ!!!」とそれまでの好青年っぷりからは想像できないような下卑た笑いを見せます。これからナチュラルクズ男になるという伏線です。
一瞬、明らかにおかしくなったイアソンですが、メディアはスルー。恋の力って、怖い……。
ただ、この舞台では、結局イアソンが結婚後どのように変化したのかはわかりませんでした。
突然メディアが捨てられた、という展開だったので、その間が見てみたかった。
家庭の問題だから見せなかったのかな。
新しい結婚相手を見つけてきたイアソンことよしおさんは、好青年だった頃の面影はなく、完全に金と権力に心を奪われた中年男性になっていました。
メディアのことを心底見下しているお芝居が上手だな!!
それにしたってやりすぎメディア
恋の情熱にあふれていたメディアも、とうとうイアソンの心を取り戻すことはできなかった模様。
強力な力を持つ魔女でもあるので、魔法でどうにかならないのかなと思いましたが、人の心だけは変えられないのですね。
で、考え抜いた末、新しい妻とその父親を殺すことにしたのです。
直前まで、国を追放されることになり、ひどく落ち込んでたのに、作戦を閃いてからのメディアの行動は早かった。
そのへんは、「月の女神に一生付いていく☆」と言ってから、一瞬でイアソンに心変わりした頃と変わっていなかったようです。切り替えの早い女。
哀れだったのは子供たちです。
もはや引っ込みのつかなくなったメディアは、子供たちをおびき寄せます。
殺害するシーンまでは見せなかったものの、子供たちが舞台袖で何やら叫んでいるのが怖かった。
妻と舅が殺されたことを知り、メディアを追求に来たイアソン。
暗闇の中からメディアがゆっくり姿を表すと、白い衣装にはべっとりと血が……。ホラーですね。
ちなみにエウリピデスの『メディア』では、このあとメディアはドラゴンの引く車に乗って、神々の国へと逃げていくのだそうです。どこまでも身勝手な女だ。
そして物語は可哀想な子供たちの会話で終わります。
唯一救いと言えるのは、3人のうち一人だけは生還ルートをたどります。
ディオドロス版『メディア』ではそうなっているようです。
脚本のフジノサツコさんが、「物語に希望を与えるため」、ディオドロス版を採用したとのことでした。
生還した子供の「こっちの方に進んでいく」的な言葉で幕を閉じます。
休憩なしの2時間。見応えたっぷりで、また、メディアに対してもツッコミどころ満載で、楽しい舞台でした。ギリシャ劇って難しそうなイメージだけど、こういう悪女(そうとまで言う)が一人いると、俄然面白いです。
古代ギリシャ研究家
今回のパンフレットは1500円。にしては、内容が充実していた!
なかでも古代ギリシャ研究家の藤村シシンさんによる、『アルゴ船物語』と『メディア』の解説です。
ほかのページが基本的にわりと真面目に書かれているのに対して、藤村さんの解説文だけPOP。複雑なギリシャ劇を、めちゃくちゃわかりやすく解説していてすごいなと思いました。
画像検索したら、ギリシャ人みたいな格好している人で、より一層好感を持ちました。
長くなりましたが、『メディア/イアソン』については今回で本当に最終回です。
絵画きっかけで舞台を観に行くという、なんとも文化度の高い行動をしてしまいました。
そんな経験がまたできたらいいなと思います。
中村 未来Nakamura Miku
千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。
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