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ホリプロステージ『血の婚礼』〜ちょっとだけThis manに似ている〜

2022.10.06

元カレと逃走する花嫁の話

チャンスがあれば観たかった作品のひとつ、『血の婚礼』が、Bunkamuraシアターコクーンで上演されるということで行ってきました。

『血の婚礼』とは……スペインの伝説的劇作家、フェデリコ・ガルシーア・ロルカによる官能的な名作悲劇。 一人の女をめぐり、男二人が命を懸けて闘う、愚かしいほどの愛と衝動の物語。だそうです。作品の内容はまったく知りませんでしたが、タイトルからして、ドロドロした愛憎劇なのだと予想はしていました。今回ももちろん、戯曲を読んで予習していったので、あらすじをご紹介します。

あらすじ

結婚式当日、花嫁が元カレと逃走。怒った花婿が二人を追いかけ、最終的に花婿と元カレが相打ちになる。

かなりざっくりしていますが、大体こんな感じのストーリーです。しかし、海外の古典戯曲にありがちな、唐突な感情変化や謎キャラクターの登場により、戯曲だけ読んでも、思わず「ん???」となる作品。さらに、セリフは韻文(詩)がふんだんに使われているので、耳で聞いても「ん???」となること請け合いなのです。特に後半は、韻文のオンパレードなので、雰囲気を味わうだけになるかもしれない。そんな気持ちでいました。

作者は、スペイン出身の詩人・劇作家のフェデリコ・ガルシーア・ロルカ(1898年-1936年)という人です。

ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、夢に出てくる都市伝説の男「This man」に似ている。

これですね。懐かしい。


ロルカは1933年に初演した『血の婚礼』が大ヒット。人気作家として走り始めるぞというときに、スペイン内戦が勃発。ロルカは反フランコ側の政治犯として逮捕。「お前、リベラルだよな?」という理由で銃殺されます。38歳の人生でした。生前書いた戯曲は5本。(Wikipedia調べ)なお、殺害されたあとロルカの遺体は行方不明となっており、遺骨もいまだ発見されていないそうです。偉大な作家の悲劇的な最期ですね。ちなみに翻訳は田尻陽一さん。2022年版の上演台本だそうです。

オンラインガチャに長蛇の列

メインキャラクターは、「花婿」、「花嫁」、「元カレ(レオナルド)」、「花婿の母親」の4人。
今回の公演ではそれぞれ、須賀健太さん、早見あかりさん、木村達成さん、安蘭けいさんが演じます。戯曲を読んだときは、てっきり花嫁とレオナルドが主役かと思っていましたが、上記4人の群像劇みたいです。

そして演出は杉原邦生さん。『パンドラの鐘』が良かったので、今回も楽しみです。

黄色バックのポスターは、スペインを感じさせます。劇場に入ったらさっそくパンフレットを購入…と思ったら、長蛇の列。何事? と見てみると、なんとオンラインガチャを販売していました。

https://slash.gift/store/horipro-stage/lottery/chinokonrei2022

くじを買うと、パネルとかバッジが当たるそうです。

古典戯曲のお芝居で、ガチャを見るのははじめてでしたが、木村達成さんファンのための試みなのでしょうか? ホリプロのお芝居はこういうのがあるんですかね? あと驚きなのは、パンフレットがクレジットカードで購入できました。ホリプロすごぉい!

今回はコクーンシートでの観劇です。こんな感じです。

はじめてコクーンシートに座ったのですが、手すりがとても低く、通路が狭いので、結構怖いです。うっかりスマホを落とさないように注意が必要な席。視界はどうかなと思いましたが、まったく問題ありませんでした。舞台セットがシンプルだったこともあり、「見えにくい」などのストレスもなし。ただ高所恐怖症の人は向かない。怖いです。

シルク・ドゥ・ソレイユ的な衣装

いよいよ幕が上がります。出演者が登場すると、「バーン!」という音とともに、ポーズを取ります。
面白いのは、床に砂が敷き詰められていること。スペインの乾いた大地をイメージしているのでしょうか。

物語は、母親と花婿の会話から始まります。須賀健太さんは、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」を観て以来です。我愛羅役似合っていました。母親(安蘭けい)は、冒頭から花婿の結婚に反対します。ここ少しややこしいのですが、母親の夫と長男を殺した犯人の親戚が、花嫁の元カレなのです。犯人ではなく、犯人の親戚。

「犯人の親戚と付き合っていた女のことなんて信用できない」という理屈なわけですね。確かに、加害者側の親族と付き合いがあった女性と結婚するというのは、被害者遺族にとっては、複雑な心境だと思います。なお、花婿と花嫁がどういう経緯で結婚することになったのかは描かれていません。でも文脈から察するに、もともと仲が良かった感じです。当時のスペインにおける、恋愛や結婚、家族、男女格差などの価値観がこの作品には詰まっているそうなのですが、とにかく現代と違いすぎて驚かされます。

やがて、花嫁(早見あかり)とレオナルド(木村達成)が「バーン!」という音とともに登場。
このとき気づいたのですが、登場人物たちの衣装がすごく独特。それぞれ形の違うベルトをつけています。がんじがらめの象徴なのでしょうか。しかし、さらに驚いたのは、花嫁のドレスです。中盤で、花嫁がウェディングドレスになるのですが、赤いフープ…? がついたかなり前衛的なデザインのドレスでした。というよりも奇抜。動くたびにフープが揺れる。シルク・ド・ソレイユの衣装に、こういうのありそうだなと思って探したら、なんとありました。

※写真はお借りしました。

まさにこれです。何か有名なデザインなのでしょうか?


みんながそれぞれ葛藤や悩みを抱えているうちに、結婚式を迎えます。そして、とうとう、元カレ・レオナルドが、花嫁を連れ去ってしまうのです。激怒する花婿。二人を追いかけます。ここまでが第一幕。休憩を挟んで第二幕です。

第二幕は、この戯曲のハイライトでもある決闘のシーンです。花嫁をかけて二人の男が戦います。肝心の花嫁の気持ちはどうかというと、「愛しているのはレオナルドだけど、一緒になれないことはわかっている。でも花婿と結婚することはできない」この時代の女性は、人生に自由がなかったわけですね。作中一番自分勝手に思える花嫁ですが、彼女は彼女で可哀想な人。

第一幕であった壁のセットが取り外され、奥行きをフルに生かした舞台になっています。しかも、舞台奥が丘になっている。決闘のシーンでは、この丘の上で花婿とレオナルドが、くんずほぐれつの大乱闘を繰り広げます。傾斜がついているので、転がったりします。コクーンシートからはこの大乱闘がよく見えて面白かったです。むしろ、一階席よりも見やすいんじゃないかな?

結局、二人は相打ち。生き残った花嫁が、母親に許しを請いながら幕が閉じる…という結末。悲劇です。約2時間あっという間でした。後半の怒涛の韻文(詩)は、難しいのでもっと退屈するんじゃないかと思いましたが、全然そんなことなかったです。役者さんたちが達者なのはもちろんですが、観客を飽きさせない仕掛けが随所にあったのが要因かなと思います。あと翻訳が素晴らしかったんだと思います。

前衛的な衣装もそうですし、印象的な登場シーン、舞台上の砂、丘の上の決闘、あと安蘭けいさんが後半「月」になって登場するシーンでは、作品が変わったのかと思うくらい、ふざけていました(いい意味です)。こういうツッコミどころ…ないし、取っ掛かりがあると、韻文のオンパレードだろうが、全然観ていられる。やはり演出の杉原さんはすごいですね。

そうした演出の意図や、衣装が意味するものなどが、パンフレットに書いてあればよかったのですが、残念ながらありませんでした。役者の対談と、翻訳の田尻さんによる、ロルカの解説は面白かったです。今公式サイトを見たら、出演者によるYou Tubeラジオなるものがありました。もしかしたら、その中で衣装の謎が解き明かされているかもしれません。今度聞いてみます。

★予習
『三大悲劇集 血の婚礼 他二篇』(岩波文庫)を読む。

★復習
You Tubeラジオを聴く。

PROFILE
演劇ライター 中村 未来

​中村 未来Nakamura Miku

千葉県習志野市出身の演劇ライター、シナリオライター。
玉川大学芸術学部卒業。
趣味は演劇鑑賞と漫画を読むこと。
東京都在住。

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